【8点】「ジャージー・ボーイズ」はアメリカの時代描写のセンスが抜群

ジャージー・ボーイズ

ブロードウェイのミュージカルは今

911やリーマン・ショックの影響でブロードウェイのミュージカルも長く苦境に立たされている。
その結果、過去の名作のリバイバル、映画のミュージカル化、ヒット曲を使ってミュージカルにするといった、一定の集客が見込める作品が大半を占めるようになった。
なにしろ、2015年の新作としてラインナップされているのが「踊る大紐育」「巴里のアメリカ人」「王様と私」「屋根の上のヴァイオリン弾き」という、アメリカ人じゃなくても知ってる往年のミュージカルのリバイバルばかりなのだ。これなら外国の観光客も足を運ぼうという気になるだろう。
名作のリバイバル以外では、誰でも知ってる名曲を集めてそれに合ったストーリーをはめ込むというジュークボックス・ミュージカルも盛んで、アバの曲を集めた「マンマ・ミーア」、80年代のロックを集めた「ロック・オブ・エイジス」などは、舞台でヒットしただけでなく映画にもなった。これも楽曲が有名なので、ミュージカルになじみのない人でも親しみやすい。

小物やファッションで時代を見せる

クリント・イーストウッド監督の「ジャージー・ボーイズ」も、このジュークボックス・ミュージカルのひとつだが、「マンマ・ミーア」などと違うのは、アメリカの国民的グループだったフォー・シーズンズの曲を使って、フォー・シーズンズの物語を描く伝記物だという点だ。
このスタイルは、人気絶頂の時に飛行機事故で亡くなったバディ・ホリーの半生を描いた「バディ」のように、当のミュージシャンにドラマがないと成立しない。
実際、フォー・シーズンズといえば「シェリー」や「君の瞳に恋してる」をヒットさせたグループぐらいのことしか知らなかったのだが、1960年にニュージャージーのチンピラ達がバンドを結成してスターになり、メンバーの脱退などを経て1990年にロックの殿堂入りするまでの30年の物語は、かなり脚色は加わっているのだろうが、確かにドラマチックだ。
監督のイーストウッドはチャーリー・パーカーの生涯を描いた「バード」を製作・監督しているくらいジャズに造詣が深いのは有名だが、こういうポピュラー音楽のそれもミュージカルを撮るのは予想外だった。
だがそれも映画を見て納得した。
物語の作りは、メンバーが観客に当時のことを語りかけたり、老けメイクから一瞬にして全盛期の姿に戻り、キャスト全員が「愛はまぼろし」を歌い踊るフィナーレ(決してインド映画のマネではない、今のブロードウェイはたいていこうなのだ)になったり、と舞台版に忠実に描いているのだが、背景となる部分の描写が映画ならではだった。
髪型、ファッション、乗る車、映画やドラマといった本筋には関わりない部分で、50年代からのアメリカの風俗がきっちりと描かれている。当時を知っているアメリカ人ならば、ヒット曲とともにそのへんを懐かしむことができるのだろう。アメリカ版「三丁目の夕日」的な要素である。
ただ、「シェリー」が1962年、「君の瞳に恋してる」が1967年のヒット曲ということは、リアルタイムで懐かしめるのは70代以上だろう。
日本にたとえると、クレージーキャッツ、加山雄三、ザ・タイガースあたりのヒット曲を使って、時代考証も完璧なミュージカルを作ったようなもので、イーストウッドがかなり力を入れている当時の雰囲気に価値を見いだせる人が果たしてどれだけいるかは疑問だ。

作品の出来はよいのだが、成績は今ひとつ

主役のフランキー・ヴァリ役に舞台版のオリジナル・キャストでトニー賞を受賞したジョン・ロイド・ヤングを持ってくるというのは、音楽的には望みうる最高のキャスティングだったが、現在39歳のヤングが16歳の少年時代を演じるのは、舞台では違和感はなくともスクリーンになるとさすがに無理を感じる。
ミュージカルの映画化なのだからと割り切って観るべきなのだが、あまりにも完璧な50年代、60年代の描写がかえってそれを妨げてしまうのだ、
そういったこともあってか、興行的には4000万ドルの製作費で興行収入が4600万ドルという惨敗に終わってしまった。アメリカは製作費とほぼ同額の宣伝費をかけるから大赤字である。
「パシフィック・リム」のようにアメリカでコケても海外では大ヒットという作品もあるが、「ジャージー・ボーイズ」は、海外でも軒並み大コケ。
当たらないと踏んで上映館を150館程度にしぼったおかげで3億円台の興収になりそうな日本が、世界的にみると稼いでいる方なので推して知るべしだろう。
作品的には、イーストウッドの監督作品の中でも、かなり上位に入れたいくらいの出来なのだが、作品の出来と興行成績は必ずしも一致しないものである。

イーストウッド監督の初のミュージカル映画に対して:8点

監督:クリント・イーストウッド
主な出演:ジョン・ロイド・ヤング
エリック・バーガン
ヴィンセント・ピアッツァ
マイケル・ラマンダ
クリストファー・ウォーケン

クリント・イーストウッド作品一覧

この記事を書いた人

天元ココ
天元ココ著者
オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
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