【6点】「イヴ・サンローラン」の主役は天才を支える苦労人

イヴ・サンローラン

モードの帝王と呼ばれたイヴ・サン=ローラン

21歳でディオールの主任デザイナーとなり、26歳で自分のレーベルを立ち上げたファッション界の寵児イヴ・サン=ローラン。
2010年公開のドキュメンタリー「イヴ・サンローラン」でも、事業のパートナー兼同性の恋人のピエール・ベルジェとの密接な関係に触れていた。今度の映画はそのベルジェがイヴ・サンローランとの日々を回想するというスタイルで、若き天才がいかにしてモードの帝王になっていったかを描いている。
イヴ・サンローラン財団初公認作品とうたっているだけあって、財団所有のアーカイブ衣装が次々に登場するのもみどころだ。

歴史上の天才を支えた人たちとは

天才というのは往々にして社会的に不適応なタイプが多いので、その真価を認めて支援する人がいないと、才能を発揮できずに終わったり、成功とは無縁の人生を歩むことになりかねない。
ゴッホは弟のテオが画商として作品を描かせていたし、モーツァルトは父のレオポルドが英才教育とプロモーションを行っていた。
これは身内だからうまくいくので、他人では色々と問題が起こることもある。
たとえば、ウォルト・ディズニーなどは、ミッキーマウスの生みの親であるアブ・アイワークスの才能を認めてビジネス化も成功させたものの、本来ならばアイワークスが得たはずの名声も自分のものにしているので、アイワークスにとってはよいパートナーとは言えなかっただろう。そしてウォルト自身はむしろプロデュースに天才性を発揮したが、それを陰で支援したロイ・ディズニーが他人ではなく実兄だったということは大いに幸いしているだろう。

描かれる深い愛情は同性ならではなのか

イヴ・サンローランの場合は、ベルジェが有能なプロデューサー、ビジネスマンであっただけでなく、彼を愛する恋人であったために、その才能を遺憾なく発揮することができ、名声も自分自身のものとすることができた。
軍に徴兵されたのがきっかけで精神病になったり、カール・ラガーフェルドの恋人(男)を寝とったり、男娼に交じって逮捕されたりと、次々にトラブルを起こすイヴを、ベルジェは辛抱強く見守り、厄介事を解決し、そして作品を作らせる。
その献身ぶりは涙ぐましいばかりで、ビジネスだけの関係だったらとてもここまでは面倒を見られないだろう。
そこはやはり、恋人であるということが関係しているのだろうが、これが異性の恋人だったら、とっとと見切りをつけられているのではないだろうか。
イヴ・サンローラン、ラガーフェルド、アルマーニ、ディオールとファッション・デザイナーのトップにゲイが多いのは、その感覚の鋭さだけでなく、情愛の深い同性の恋人の支援があればこそなのではないか、などと思ってしまった。

男同士の愛は強い:6点

監督:ジャルリ・レスペール
主な出演:ピエール・ニネ
ギョーム・ガリエンヌ
シャルロット・ルボン

この記事を書いた人

天元ココ
天元ココ著者
オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
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