「イントゥ・ザ・ストーム」は「ツイスター」以来の本格竜巻映画

イントゥ・ザ・ストーム

竜巻映画といえば、何をおいてもまず「ツイスター」ということになるだろう。

これ一作でディザスター・ムービーの中に竜巻映画というジャンルを築いてしまったようなものだから、以後の竜巻映画はどうしても「ツイスター」を基準に語られることになる。
TVムービーを含めて竜巻の登場する映画はいろいろ作られたが、どれも「ツイスター」ほどには印象が残らない。
唯一、サメの大群を巻き上げた大竜巻がカリフォルニアを襲うという、ツイスター+ジョーズみたいなアサイラム製作の「シャークネード」は、あまりのバカバカしさで早くもカルト化しているがそれは例外中の例外。
あとは、人類を襲う災害の中のひとつとして、ロサンゼルスを襲う竜巻のシーンが見ものだった「デイ・アフター・トゥモロー」ぐらいのものか。

リアルすぎる竜巻映像には脱帽

そんな横綱「ツイスター」と平幕がいっぱいの竜巻映画の中で、「イントゥ・ザ・ストーム」はひさびさの大健闘だった。

「ツイスター」から18年経過しているので、その間のVFXの技術的進歩は凄く、スクリーンを見ていて時々「よくこんなシーンが撮れたな」と錯覚してしまうくらい、竜巻の描写が真に迫っていた。
といっても、現実そっくりに描ければそれだけ迫力が増すかというとそうでもないのが映画の難しいところで、たとえば「ウォーキング with ダイナソー」のゴルゴサウルスがいかに古生物学的にリアルであっても、「ジュラシック・パーク」のヴェロキラプトルほどの怖さを感じないところがある。

「イントゥ・ザ・ストーム」の白い竜巻もリアルさという点ではドキュメンタリーと見まごうばかりだが、登場人物が挑む敵という点では、「ツイスター」の禍々しさの象徴のような黒い竜巻の方が役者が一枚上だ。
「イントゥ・ザ・ストーム」がリアルなティラノサウルスだとしたら、「ツイスター」は異世界のドラゴンといった感じだろうか。

分散してしまったストーリー

「イントゥ・ザ・ストーム」が健闘しつつも「ツイスター」の牙城を崩せなかった理由のひとつには、竜巻に立ち向かう主人公たちの設定の違いも大きい。

「ツイスター」の主人公は、少女時代に父親を竜巻で失った女性研究者で、彼女とその研究チームが新開発の観測装置を竜巻に吸い込ませる、という目的のためだけに大竜巻に挑む。その発明を盗んだライバルの研究者が悪役としてアクセントを添える程度で、その他のことにはさしてウエイトが置かれていない。
映画の作り方としては、ひとつの目的に向かってひたすらチームワークを発揮するスポーツものや戦争アクションに近い。
この辺の一本調子なところが、ゴールデンラズベリー賞で「ジョー・エスターハス記念/興行収入1億ドル以上作品限定最低脚本賞」という名誉ある賞をもらった所以なのだろうが、脚本を書いたマイケル・クライトンらにすれば、観客が見たいものを作っただけだというのではないだろうか。
事実、「ツイスター」は映画公開の直後からテーマパークのユニヴァーサル・スタジオ・フロリダでアトラクション化され、今でも人気を保っている。結局、下手に人間ドラマを入れたりせず、そういうアトラクション的なところを貫いたのが、この映画がヒットした原因なのだろう。

一方、「イントゥ・ザ・ストーム」は、竜巻の映像を撮影して儲けることを考えている撮影隊、卒業式当日に竜巻に襲われることになる高校の教頭とその二人の息子、YouTubeに竜巻の映像を載せてヒット数を稼ぎたい「ジャッカス」に出てくるような冒険バカ、と3つに分かれたグループが竜巻に挑んだり、襲われたりしながら話が展開して行く。
この3つがうまく絡めば、3通りの人間模様がクライマックスに向かって収束していくというグランドホテル形式の傑作にもなったのだろうが、この作品ではそこまでいかず、ただ単に興味を分散させてしまっただけのように思える。
特にプロの撮影隊とアマの冒険バカが、ほとんど交わることなく終わってしまうのは惜しい気がした。こういう映画だから、竜巻専用の装甲車まで用意しているプロの危機を、バギー車に乗ったアマ(しかもバカ)が手助けするというような、通俗的な展開もあってもよかったのではないか。

モキュメンタリーとしては不徹底

もうひとつ、この映画は「クローバー・フィールド」や「クロニクル」のようなモキュメンタリー方式で撮影されていて、すべての映像が映画の中に登場するビデオカメラ、スマートフォン、防犯カメラなどに記録されたものという構成になっているらしい。
らしいというのは、そういう構成にしようという意図とは裏腹に、時々、物語の外にいる実際の撮影スタッフが撮ったとしか思えない、神の視点から見た映像が入ったりするからだ。

「クローバー・フィールド」や「クロニクル」では、画面に撮影時の日付が入ったり、防犯ビデオの映像は極端に画質が悪かったり、と劇中で撮影している機材がそれぞれ誰がどこで撮影したのかがわかるように工夫しているのだが、「イントゥ・ザ・ストーム」は、どうもそういう細かい気配りをした形跡が見えない。
スマートフォンや防犯ビデオは、一応それらしく撮っているのだが、登場人物の背後でファインダーをのぞいているのが誰だかわからない映像が多く、家庭用ビデオで撮ったらしい映像と、業務用ビデオで撮ったらしい映像に大きな差がなく、全体的に構図も安定してぶれのないきれいな絵になっている。
もともと完璧なモキュメンタリーとして作る意図がなかったのかもしれないが、なにか中途半端な印象を受けた。

誰も気づかない「オズの魔法使」へのオマージュ

中途半端といえば、竜巻に向かって走る車のフロントガラス越しに、ディズプレイ用か何からしい牛が飛んで行くのが一瞬映るのだが、これは「ツイスター」がしつこいくらいに描いた牛が竜巻で飛んでいくシーンへのオマージュ、というよりも「ツイスター」がオマージュした「オズの魔法使」の竜巻で牛が飛ぶシーンへのオマージュなのだろうが、ほとんどの人は気づきもしなかっただろう。

観測装置の名前に「オズの魔法使」の主人公ドロシーの名前をつけたりした「ツイスター」に比べると、その辺も中途半端な気がした。
いっそエンドロールの後で、どこかに飛ばされた撮影隊の車両の下から魔女の足が覗いていて、小さな人たちが「悪い魔女は死んだ」と歌うぐらいのことをしてもよかったかもしれない。

原題:Into the Storm
監督:スティーヴン・クォーレ
脚本:ジョン・スウェットナン
主な出演:リチャード・アーミテッジ
サラ・ウェイン・キャリーズ
マット・ウォルシュ
アリシア・デブナム=カーレイ

この記事を書いた人

天元ココ
天元ココ著者
オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
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