「LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標」はマスのためではなくコアのため
超大作の後は小粋な小品
ルパン映画史上初の興行収入40億円越えを達成した「ルパン三世VS名探偵コナン」。
コナンとのコラボという変則的なもので大当たりをとってしまうと次回作が大変だろうと思っていたら、出てきたのが「LUPIN THE IIIRD次元大介の墓標」というマニア向けの作品だった。
初上映が新宿のバルト9で1週間だけという、劇場も上映期間も超限定。しかも上映時間51分という短かさ。さらに、それを25分ずつの前後編に分けたところは映画と言うよりテレビシリーズの作りだ。
若き日のルパンたちを描く新シリーズ
実際、これは2012年のテレビ・シリーズ「LUPIN the Third -峰不二子という女-」の流れを汲むもので、内容的にそれ以前のテレビシリーズ、テレビスペシャル、劇場版とは関わりをもたない。
「峰不二子という女」は、不二子、ルパン、次元、五ェ門、銭形らの若いころをモンキー・パンチの原作コミックに近い設定で描いたシリーズで、タイトル通り主役は峰不二子。ルパンは全13話の3分の2にあたる9話にしか登場しないという画期的なものだった。「次元大介の墓標」もアニメ・ファーストシリーズ以前、ルパンと次元がまだ「仲間」というよりは「ビジネス」での付き合いに過ぎなかった時代を、次元を主役に描いている。
70年代スパイ映画の面白さ
時代設定もコミックの連載が始まった60年代終わりから70年代始めを意識しているのだろう。ルパンと次元の乗る車も、従来のメルセデス・ベンツSSK、フィアット・500といった趣味的なクラシックカーから、70年代を代表するスポーツカーであるアルファロメオ1750GTVに変更されている。敵役のヤエル奥崎の乗る車が71年に登場したいわゆるスーパーカーのマセラティ・ボーラというセンスもいい。
ハイテクなガジェットもいろいろと登場するのだが、パソコンやスマートフォンのような実在するメカというよりも、60年代、70年代ごろのスパイ映画によく登場した秘密兵器的なニュアンスが強い。
原作のコミック自体が、当時大流行していたショーン・コネリー版の007の影響を受けているものなので、原作リスペクトの「次元大介の墓標」も、当時のスパイ映画のようにお洒落でハードボイルドでカッコいい。ファミリー層でも楽しめる最近のテレビスペシャルのルパンと比べて、はっきりと大人向けを指向しているのだ。ルパン・ファンが求めていたのはこういう路線だったかもしれない。全国9都市を回った後の角川シネマ新宿での追加上映が満員に近かったのもそのせいだろう。
原作に忠実な初めてのルパン
キャラ設定が原作のままなので、ルパンは悪党だし銭形は一味と慣れ合わない。このシリーズのルパンが「ぜ~にがたの父っつぁん」と言ったり、銭形が「奴はとんでもないものを盗んでいきました」と言ったりするところなど、とても想像できない。
この原作リスペクトなルパン・シリーズ、ブルーレイを買ってでも見るというようなコアなファンには人気が高いので、今後も五ェ門や銭形を主役にしたスピンオフが作られることは間違いないが、なんといっても気になるのは、話の最後に登場したある人物だ。単なるカメオ出演なのか、それとも次作への布石なのか、気になってならない。
キャスト・その他情報
監督:小池健
声の出演
ルパン三世 栗田貫一
次元大介 小林清志
峰不二子 沢城みゆき
銭形警部 山寺宏一
クイーン=マルタ 皆瀬まりか
(歌:Beverly Staunton)
ヤエル奥崎 広瀬彰勇
この記事を書いた人
- オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
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