「ケープタウン」にオーランド・ブルームの明日を見た

ケープタウン

エルフの王子とウィル・ターナーのはざま

オーランド・ブルームの悲劇(といってしまおう)は、実質的なデビューが「ロード・オブ・ザ・リング」のレゴラスだったことだ。北欧神話系の面長の顔立ちに長い金髪というエルフの王子様役で世界中の婦女子の心をわしづかみにしてしまったことのどこが悲劇かというと、オーリー本人はアングロ・サクソン系の縮れた黒髪に角ばった顔という、レゴラスとは別タイプのいい男(ここは重要だ)であった点である。

実際、「パイレーツ・オブ・カリビアン」で晴れて主人公のウィル・ターナーに抜擢されたときも、「鍛冶屋の息子がカッコいいので誰かと思ったら、レゴラスの人でした」というようなレビューが数多く見られた。この時点でのオーランド・ブルームの評価は、いい男だけどエルフの王子様ほどではない、という奇妙なものになっていた感がある。
それもあってか、「キングダム・オブ・ヘブン」「エリザベス・タウン」の2本の主演作はどちらも大コケ。パイレーツ・シリーズは当たったものの、ジョニー・デップに主役の座を奪われて、ついに4作目では出番なしという事態になってしまった。
どうなるんだろうと心配していたときに公開された「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」では、ついに悪役のバッキンガム侯爵を演じることになった。

目指せ、チョイ悪ヒゲ親父

ところが、この嫌味な髭の侯爵が実によかった。ほかに誰が出ていたか思い出せないくらい、オーランド・ブルームが一人でおいしいところをさらっていった感がある。
もうオーリーにはこういうチョイ悪路線しかないと決めていたら、「ホビット 竜に奪われた王国」でまたまたエルフの王子様を演じて観客からは「レゴラス無双」と大喝采。
金髪の王子もいいけれど、君は絶対に黒髪髭面のチョイ悪で行くべきだ、と心の中のオーリーに訴えていたところに出てきたのがこの「ケープタウン」だった。

傑作ハードボイルド「ケープタウン」

酒飲みで、服装も女にもだらしがないタトゥーだらけの不良警官。もちろん縮れた黒髪に髭面。しかも初登場シーンが、エルフの王子どころか鍛冶屋の息子でも絶対にやらない、全裸で愛人とベッドの中という男臭さ全開ぶり。これからのオーランド・ブルームはこれですよ。

映画自体がまた傑作。

最初はオーリーとフォレスト・ウィテカーを使って、フランスの映画会社が南アフリカを舞台に作ったハリウッド風バディ・ムービーかとたかをくくっていたのだが、とんだ大間違い。もう、警官だろうとギャングだろうと一般市民だろうと次から次へと容赦なく殺されていく。レイティングを気にするハリウッドでは殺さない子供や動物も、ホラー映画並みに殺される。そして、ハリウッド大作マニュアルでは必ず入るダレ場やギャグもなしに、ただただハードボイルドに物語が進んでいく。

まるでサム・ペキンパー、ウィリアム・フリードキン、ドン・シーゲルらが覇をきそっていた70年代のアメリカン・ニューシネマのように、重くて深くて面白い。また、本来はこっちが主役なのだろうが、フォレスト・ウィテカー扮する過去のある黒人警官の感情を抑えた演技がまさに神がかり。見終わった後はヘビー級のパンチを食らったように打ちのめされること必至。

この映画の後で「ホビット 決戦のゆくえ」を見たら、レゴラスもいい男だけど「ケープタウン」のブライアン刑事ほどじゃないな、と思うはずだ。

キャスト

オーランド・ブルーム
フォレスト・ウィテカー
コンラッド・ケンプ
ジョエル・カエンベ

この記事を書いた人

天元ココ
天元ココ著者
オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
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