「もらとりあむタマ子」~タマ子はなぜモラトリアムだったのか?~
モラトリアム・・・①支払猶予
②一時停止
③肉体的には成人しているが、社会的義務や責任を課せられない猶予の期間。
また、そこにとどまっている心理状態。
タマ子!!
映画はタマ子(前田敦子)の寝姿から始まります。散らかった和室に無造作に敷かれた布団の上でしどけなく眠るタマ子。色気も何もありません。天衣無縫、唯我独尊状態です。
お父さんが作ってくれたご飯をチンしてテレビを見ながら食べたあとは、漫画を読んだりゲームをしたり。
毎日がこんな感じで過ぎていきます。
このグータラぶりがなんとも自然で、前田敦子さん、とても演技とは思えません。そういえば我が家にもこんな娘がいましたっけ、という感じです。
お父さん!!
甲府でスポーツ用品店を営むお父さん(康すおん)は、バツイチで働き者。お店の切り盛りから食事作り、洗濯、掃除、なんでも器用にこなします。何にもしないタマ子に業を煮やしながらも、なぜかえらそうにしているタマ子の世話をごく自然にこなしています。
中学生!!
近所の写真館の息子、仁(伊東清矢)は中学生。注文したバッシュ(バスケットシューズ)のことで店に来たとき、たまたまお父さんが不在だったためタマ子が相談に乗ったことから知り合い、以後タマ子にアゴで使われることになります。
実はアイドル志望だったタマ子。この中学生に頼んでこっそり応募用のポーズ写真を撮ってもらうのです。これはあっという間にバレてしまうのですが、タマ子がやっと見せた「行動」にお父さんは嬉しさを覚えるのでした。
お父さんに縁談が持ち上がると、ビーズ教室を開いているという相手(富田靖子)の様子を探るため、タマ子の命令で教室に潜入させられます。これがケッサク。
この中学生、そのうちタマ子を「タマ子」と呼び捨てです。
卒業
お父さんの縁談相手の曜子さんの人柄を知るため、自らビーズ教室に潜入したタマ子。娘だと知られると、なんとか話を壊そうとしてお父さんの悪口を並べ「一番ダメなのはアタシに家出てけって言えない所ですよ」と言います。すると、「(お父さん)いい人なのになんで次の人見つけないのかわかった。タマ子ちゃんおもしろいから」と言われてしまいます。別れたお母さんに相談するのですが、意外に薄い反応で、タマ子はやっと事態を飲み込むのです。
父と娘
世界中で最も理解し合い、許し合える間柄。父にとって娘は限りなくかわいくて、娘にとって父はどんなわがままも聞いてもらえる人。そこに他者が入らない限り、もたれあいは続きます。
どこかでふんぎりをつけなければ、次の一歩は踏み出せません。
父は最愛の娘を広い世間に送り出し、娘は父の腕の中から飛び出さねば自分の幸せは築けません。
あの小津安二郎監督が繰り返し描いたテーマを、ここに見いだす人も多いようです。
曜子さんから話を聞いたお父さんは、「今さら他人とは暮らせないよ」と言いつつも、ついにタマ子に「この家を出てけ」と言い渡します。それを聞いたタマ子は「合格」のひと言。
お父さんは「なんだそれ」と言って食事を続けます。
こうしてグダグダな日常の中で父と娘はそれぞれの役目を終え、小さな一歩を踏み出すのです。
ちなみにタマ子の「アイドル」への夢は「あっちゃん」のようにうまくはいかなかったのか、その後の進展は描かれません。
とにかく、同じ年頃の娘を持つ私にとって、シーンのひとつひとつがいとおしい映画なのでした。
キャスト
前田敦子
康すおん
伊東清矢
鈴木慶一
中村久美
この記事を書いた人
- 映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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