「ノア 約束の舟」~「正しさ」よりも「愛」を~

ノア 約束の舟

アダムとイブは、禁断の木の実を食べたことにより善悪を知るものとなり、エデンの園から追放された。
人は地に増えたが、創造の力を暴虐につぎこんだ。
地上が悪で満たされるのを見て、神はすべての人を絶やそうと決心した。

ただし、神の前に正しい人であるノアには箱舟を作りその家族とすべての生き物のつがいを乗せるよう命じ、やがて地に雨を降らせて洪水を起こし、他の生き物すべてを地上からぬぐいさった。

旧約聖書に書かれている「ノアの箱舟」は、誰もが知っているお話ですが、ここからのノア(ラッセル・クロウ)の苦悩を知る人はいなかったでしょう。
だって聖書にはまったく書かれていないのですから。
水が地上にみなぎって、やがて退くまでのドラマが、この映画オリジナルの主題です。

「神の前に正しくある」とは

なぜノアが選ばれたのか、それは彼が神の意志に忠実であろうとする人だったからです。
箱舟にすがりつく人々を追い払い、自分の家族以外の者が洪水に飲み込まれても、それが神の意志であるならば従うしかないと考えます。たとえ息子の恋人がその中にいたとしても。
そして息子達が欲望に振り回されているのを見て、自分たち家族もまた滅びるべきだと考えます。それが神の意志であると。
「正しさ」にしがみつくノアは、長男(ローガン・ラーマン)の妻(エマ・ワトソン)が懐妊したのを知ると、生まれてきた子が女ならば殺すと宣言します。

密航者カイン

その舟には地上の悪虐のリーダーだったカイン(レイ・ウィンストン)が忍び込んでいました。彼はノアを殺し、自分が新しい世界の権力者になることを目論みます。
私利私欲で悪を働く者と、神の前に正しくあろうとする者とが、「殺人」という同じ手段にたどりつくのは皮肉でしょうか。
カインはノアを殺そうとしますが、ノアの次男(ダグラス・ブース)によって殺されます。

妻の抵抗

狂信者となったノアに全身全霊で抵抗したのは彼の妻(ジェニファー・コネリー)でした。それまで従順にノアを支えていた妻は、息子の子供の命をなんとしても守ろうとします。ジェニファー・コネリーは実に凛とした美しさでノアに詰め寄ります。
命をつなぐ役割を背負った女性には、神の意志もへったくれもないのです。
しかし、生まれたのは女の双子の赤ちゃんでした。

愛は勝つ

ノアは生まれた女の赤ちゃんに剣をふりかざします。
もはやこれまでと思ったとき、赤ちゃんの額に触れたのはノアの唇でした。
「私の中には愛しかなかった」とノアは言います。「愛」が人類を救ったのですね。あーよかった。

雨は止み、地上が現れ、ノアとその子らは神の祝福を受けます。「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」と。
こうして空には再び洪水は起こさないという約束の虹がかかり、物語は聖書の記述の中に吸い込まれていくのです。

この映画「よくわからない」と言う人が多いようですが、宗教的対立が戦争に発展する事態が止まない今日にあって、実に深いテーマが隠されていると思いましたが、いかがでしょうか。

キャスト

ラッセル・クロウ
ジェニファー・コネリー
レイ・ウィンストン
エマ・ワトソン
アンソニー・ホプキンス

この記事を書いた人

くりちゃん
くりちゃん著者
映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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