【8点】 「白ゆき姫殺人事件」~私が知っている「私」は私なのか~

白雪姫殺人事件

噂ーー①そこにいない人を話題にしてあれこれ話すこと。また、その話。
②世間で言いふらされている明確でない話。風評。

これは噂の恐ろしさをとことん追求した湊かなえさんの同名小説を中村義洋監督が映画化したものです。

噂の発端

TVのワイドショーのディレクター(原作では週刊誌の記者)赤星雄治(綾野剛)に、1本の電話が入ります。元カノの狩野里沙子(蓮佛美沙子)からでした。彼女が勤める化粧品会社の女性が「しぐれ谷」と呼ばれる雑木林で全身をメッタ刺しにされた上、灯油をかけられて焼かれた状態で発見されたというのです。
その人の名は三木典子(奈々緒)。2つ上の先輩で、美人なだけでなく後輩の面倒見がよく、恨みを買うような人ではないとのこと。
そして同僚の話として、犯人に城野美姫(井上真央)の名を挙げるのです。

城野美姫は三木典子の同期で、同じ部署で働く地味な女性。彼女はその日あった送別会を三木典子と同じに1次会で抜けただけでなく、その後ずっと休んでいるというのです。
さらに、城野美姫がつきあっていた篠山係長を三木典子にとられたという痴情のもつれという動機もあるとのこと。

赤星雄治はこの情報に飛びつき、ツイッターで拡散させた挙げ句ワイドショーの中で報じます。(原作ではツイッターと週刊誌の記事が巻末にまとめて載せられています。)
「白ゆき姫殺人事件」とは、化粧品会社のヒット商品「白ゆき」(化粧せっけん)と、白雪姫のような美貌を持つ三木典子、さらに城野美姫という名前から連想されて名付けられたものでした。

結論のひとり歩き

「三木典子を殺したのは城野美姫」これがひとり歩きを始めた結論でした。

これにまわりの人間が寄ってたかって理由付けをしていきます。
映画の画面にツイッターの文字が次々と現れ、拡散の様子を伝えていきます。
そういえばこんなことがあった、あんなことがあったと、小さなエピソードを針小棒大に伝えることで「殺人者城野美姫」を仕立て上げていくのです。

そして映画を観ている私たちの中にも、相手を呪い殺すほどのドス黒い内面を持った「城野美姫」が形成されていきます。
はたして城野美姫とは、本当はどんな女性なのでしょう?

思いっきりネタバレ

絶体絶命の状況に追い込まれた城野美姫は、潜伏先のホテルの便せんに自分のことを書くことにしました。
書いてから死のうと。
そこに現れた実像は、地味で目立たないけれども友達想いでしっかり者で、音楽と料理が大好きな、普通の女性でした。
そして、いざ死のうとした時TVに真犯人逮捕の報道が流れます。

なんと犯人は噂の発端を作った狩野里沙子でした。
赤星雄治はうまいこと利用されたのですね。
動機は、実はものすごくイヤな女だった三木典子への反感と、社内の備品や商品を盗んでいたことを彼女に知られてしまったこととか。あまりの幼稚さに愕然となります。

あらぬ疑いをかけ誰かを血祭りに上げる。これは現代版魔女裁判です。
高度に発達した情報社会において私たちはうっかりすると被害者にも加害者にも簡単になれてしまいます。
お互い気をつけたいですね。

【8点/10点】

この記事を書いた人

くりちゃん
くりちゃん著者
映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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