【9点】「るろうに剣心 3部作」~「不殺(ころさず)の誓い」を守らせたものとは~
「るろうに剣心」には2012年公開作品で初めて出会い、熱量に圧倒され、この夏「京都大火編」「伝説の最期編」と観てここに何か知るべきものを感じ、原作の完全版22巻を読破して奥行きの深さに改めて感じ入りました。
原作のエッセンスをすくいあげてよくぞこれほど魅力的に実写化してくださったものです。
それにしても男たちはなぜこれほどまで闘わなくてはならないのでしょう?
一度闘いの連鎖に足を入れたものは、死ぬまでそこから抜け出せないということでしょうか。
幕末「人斬り抜刀斎」として恐れられ、明治の世を「流浪人(るろうに)」として「不殺(ころさず)の誓い」を胸に生きる緋村剣心も、その一人。
前時代の亡霊ともいうべき猛者たちが、次から次へと剣心とそのまわりのいる人たちを闘いの場へ引きずり込みます。そこにしか彼らの生きる場が残されていないから。
その闘いの中で、剣心は何度か元の「人斬り」に戻されそうになります。その時、剣心を引き止め修羅の道から救い出したものとは何だったのでしょう?
その1:神谷薫の叫び ーー「るろうに剣心(2012)」ーー
「人を活かす剣」が信条の神谷活心流の師範代神谷薫との出会いは、剣心にとって大きな意味を持つものとなりました。薫の父が明治に入って起こしたこの流儀は、新しい時代における剣の道を予感させるものです。
その薫が幕末の亡霊の一人「刃衛(じんえ)」にとらえられ「心の一方(しんのいっぽう)」という術にかけられます。これは目から発した気で相手を不動金縛りにする秘技で、2分以内に解かないと命がなくなるというものでした。
闘いの中にしか自分を見いだせない刃衛は、剣心を元の「人斬り」に戻そうと挑発してきます。薫にかけられた術は、自分で解くか、かけた者を殺して気をなくすか、どちらかしかありません。
剣心は闘いに勝った上で、刃衛を殺して薫を助けようとします。
意を決して、剣心が刀を振り下ろしたその時、「剣心、だめー!」
薫の渾身の一声が響きます。
剣心を人斬りに戻したくない一心で、薫は自分で術を解いたのでした。
剣心はすんでのところで「不殺(ころさず)の誓い」を守れたのです。
その2:逆刃刀(さかばとう) ーー「京都大火編」ーー
二度と人を斬らないと誓った剣心は、刀を逆刃刀(刃がそりの峰の部分についているので斬れない)に持ち替えていましたが、明治政府転覆の野望を持つ志々雄真実(ししおまこと)の一番弟子瀬田宗次郎との闘いで折られてしまいます。
新たなる逆刃刀を求めて刀匠・新井赤空(しゃっくう)の元を訪ねますが、赤空はすでに他界、息子の青空(せいくう)は刀造りを辞めていました。しかし、赤空の最後の一振りが残されていることを嗅ぎ付けた志々雄の一味「張(ちょう)」が、青空の赤ん坊を人質にして手に入れようとします。
赤ん坊を助けるために剣心は闘うことになりますが、折れた刃ではなかなか決着がつきません。
そこへ、青空が神社に奉納してあった赤空の最後の一振りを剣心に投げるのです。この刀で闘いを制してもらうために。それが「逆刃刀真打」であることを剣心は知りません。
その刀を抜くか、抜かないか。
逆刃刀以外の刀を抜くことは、剣心が再び「人斬り」に戻ることを意味します。
剣心は葛藤の末、ついにその刀で抜刀術を放ちます。
闘いに敗れた張は、命を落とすことはありませんでした。
剣心の「不殺(ころさず)の誓い」は、この刀に守られたのです。
それは殺人刀を造り続けた赤空が、孫の代には平和な世の中であるよう願いを込めて造ったものでした。
その3:師匠の教え ーー「伝説の最期編」ーー
力不足を痛感した剣心は、師である比古清十郎に奥義の教えを乞います。
死を覚悟して奥義を会得し、人々を守るために志々雄と対決しようとする剣心の心を察し、師は「剣心に欠けているもの」を見つけ出せと言います。
それは「生きようとする意志」でした。
それがなければ真の強さは得られないと。
死んで悲しみを残すより、生きて幸福を得ることだと。
「不殺(ころさず)の誓い」を守るには真の強さが不可欠で、そのためには「己自身も不殺(ころさず)」であることが必要なのですね。ここ大事です。
その4:剣心が具現しているもの
剣心の「不殺(ころさず)の誓い」には、どうしても日本国憲法第9条「戦争の放棄」を重ねてしまいます。
これを守り抜くことはいかに大変であるか。
己の強さは不可欠であり、しかも独善的であっては自滅します。これを理解し、協力する仲間が必要なのです。
剣心はただひとりでこれを守り抜いた訳ではありませんね。
そして時代に置いてけぼりを喰った男たちの姿に、どこか自分を重ねる人も多いことでしょう。
強く「生きよう」と願えば、必ず自分を生かす道は開けると信じたい。
最後に、剣心のもうひとつの刀傷にまつわるエピソードの実写化を願いつつ、終わりにします。
【9点/10点】
この記事を書いた人
- 映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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