【6点】「ブルージャスミン」~ウディ・アレンはセレブ女がよほど嫌いにちがいない~

ブルージャスミン

ジャスミン

始めから終わりまでジャスミンはイタい。イタすぎる。
だいたい本名はジャネットなのにジャスミンと自分で改名しちゃうところからすでにイタい。
ジャスミンといえば私などは真っ先に入浴剤を連想してしまいます。

ジャスミンを演じるケイト・ブランシェットの壊れぶりは必見です。
それにしても落ちぶれたセレブ女の痛々しい姿をこれほどまでに誇張し、容赦なく描ききるとは。皮肉を通り越して悪意さえ感じてしまいます。ウディ・アレンはよほどセレブ女が腹に据えかねるのでしょう。でなければ、こんなに救いのない映画に仕立て上げるはずはありません。しかも途中で少し希望を与えた挙げ句、完膚なきまで落として終わるのですから。

ジンジャー

ジンジャーも、私が今はまっている入浴剤のひとつ。体がよく温まります。
あ失礼、ジンジャーはジャスミンの妹です。
といっても2人とも里子という設定のため、まったく似ていません。育ての親が美しいジャスミンばかりをかわいがるので、ジンジャーは早くに家を出て、西海岸のスーパーでレジ打ちをしながら2人の子供を育てるシングルマザーです。
そこへジャスミンがNYからやってきます。派手な暮らしをさせてくれていた夫が詐欺で捕まった挙げ句自殺し、全財産を没収され、先妻の息子にも去られて無一文だというのに、ブランド物のスーツとバゲージを身につけて。
お金持ちだった頃はなしのつぶてだったジャスミンを、ジンジャーは受け入れ、理解しようとします。

過ぎ去った夢の中に生きるジャスミンと、現実に根を張って生きるジンジャー。
あらゆる意味で対照的な2人です。

物語

無一文で妹の家に転がり込んだジャスミンは、ジンジャーの子供達や男友達とうまくつきあえません。
セレブ気取りが抜けないのです。
セレブ女といってもジャスミンはほとんど働いた経験がなく、大学も中退で何の資格もありません。その美貌で金持ち男の妻の座を射止めはしましたが、やっていたことは夫のお金を使うことと社交とボランティアです。
でも、働かなければ食べていけません。
妹がつきあっている男の紹介で歯科医院の受付をしながら、インテリアコーディネーターの資格を取るためにパソコン教室に通い始めます。それはジャスミンにとって精神のバランスを失いそうになるほどの試練でした。

この状況をなんとか打開しようと模索し、あるパーティーで政治家を目指すバツイチ男性と知り合います。
自分はインテリアコーディネーターだと嘘をつき、キャリアウーマンを気取るジャスミン。
互いの野心が合致し、ジャスミンの持つ雰囲気がすっかり気に入った男性は、ついに求婚します。

ところで、妹ジンジャーもこのパーティーである男性と知り合い仲睦まじくなりますが、妻がいると知るやすぐに元の男友達とよりを戻します。この切り換えの早さもジャスミンとは対照的です。

ついに運が開けたかと思ったのもつかの間、結婚指輪を買いに行った店先で、妹ジンジャーの前夫とばったり。
前夫に過去をすっかり暴かれ、嘘を知った男性は去ってしまいます。
そこで息子の消息を聞いたジャスミンは会いに行きますが、息子の対応はけんもほろろ。ここで、実はジャスミンが、夫の浮気に逆上してFBI に不正を通報したことが明かされます。
自分で自分の花を摘んでしまったのですね。

ジャスミンは不幸なのか?

でも私は、ジャスミンはそれほど不幸でもないと思うのです。
だって一度でもセレブの生活を味わえたのですもの。
ジャスミンとジンジャーのどちらの人生を生きたいかと聞かれたら、私は「ジャスミン」と答えます。
一度も花の咲かない人生より、一度咲かせた花を胸に余生を送るのも悪くはないと。
ですからウディ・アレン監督には、どうか愛を持ってその後のジャスミンを描き直して欲しいと思うのです。
【6点/10点】

この記事を書いた人

くりちゃん
くりちゃん著者
映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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