「GODZILLA」ゴジラ(1954)ではないギャレス・エドワースの新作
「平成ゴジラ」であって「ゴジラ(1954)」ではないギャレス・エドワースの新作「GODZILLA」
ギャレス・エドワーズ版「ゴジラ」は、東宝の平成ゴジラ・シリーズ、別名「VSシリーズ」のリブートとして見れば、非常によくその衣鉢を継いでいる。
平成ゴジラ・シリーズとはどういうものかといえば、こういう特徴がある。
1)ゴジラに敵対する第二の怪獣とのバトルがメイン。
2)観客の対象年齢を「コロコロコミック」の読者である小学生にまで下げた結果、リアリティよりも怪獣バトルの迫力などが評価の対象となった。
3)ゴジラのエネルギー源を核物質という設定にしたことで、核の脅威を訴えた初期のゴジラとは逆に、核兵器や核爆発の扱いが軽くなった。
これに対して、本多猪四郎版の「ゴジラ」第一作はどうであったか。
1)ゴジラは原爆、台風、戦争など自然災害や人為的災害の象徴として人間社会を襲う。
2)主人公の恋愛問題の描写なども含めて、観客の対象年齢は高く、むしろ子供には退屈と思われるシーンすらある。
3)ゴジラを水爆の脅威を具現化したものとして描いたため、核爆発や核汚染による後遺症などを、比較的リアルに描いている。
今度の新作「ゴジラ」を見た人の意見が、絶賛と否定に二分されている理由は、それぞれがどの「ゴジラ」をオリジンとして想定しているかの違いにあるだろう。
平成ゴジラ・シリーズとそれに続くミレニアム・ゴジラ・シリーズの怪獣格闘技的スペクタクルを愛する観客にとっては、それを忠実に再現した新「ゴジラ」はハリウッドからの福音だろうし、1954年版「ゴジラ」のゴジラと人間が決して相容れることはない、文明批判的な部分を好む人にとっては、ゴジラ以上に相容れない存在として映ったに違いない。
隠された第二の怪獣
新「ゴジラ」が最初から「怪獣大決戦 ゴジラVSムートー」というような売り方をしていれば、少なくとも「オリジナルのゴジラに込められていた反核の風刺が滑稽なほど弱められた」という米ガーディアン紙の批評に代表されるような批判は生まれなかっただろう。
しかし、ワーナーブラザースの売り方は、この映画がオリジナル「ゴジラ」のリブートかと誤解させるようなものだった。
アメリカ版でも日本版でも、予告篇ではゴジラが人間社会を襲って大きな被害を出し、それに軍隊が反撃するという、まさに本多版「ゴジラ」を思わせるように作られていた。
ところが、映画を見た観客は予告篇で描かれていた旅客機の墜落も、原発の崩壊も、F-22戦闘機の墜落も、ゴジラが引き起こしたのではなく、予告篇では巧妙に隠されていた第二の怪獣ムートーによるものと知って唖然とすることになる。
しかも、映画のプロットで重要なのはムートーの大暴れであり、ゴジラは主人公のピンチを救いにやって来る西部劇の騎兵隊的な存在になっている。
もちろん、第二の怪獣ムートーの存在を隠していたのは観客にとっては大きなサプライズで、映画の作劇法としても宣伝法としても正しいのだが、それでも「ゴジラ」を期待していたら「ゴジラVSデストロイア」を見せられてしまった、という割り切れない思いは残る。
ゴジラよりもガメラに似た展開
もうひとつ問題なのは、この新作「ゴジラ」が確かに「VSゴジラ」シリーズの再現ではあるものの、プロット的には「ゴジラ」ではなく、別の怪獣映画そっくりだという点だ。
それは金子修介監督による平成ガメラ・シリーズで、前半は第一作「大怪獣空中決戦 ガメラ対ギャオス」に、後半は第二作「ガメラ2 レギオン襲来」に類似した部分が多い。
まず第二の怪獣が現れて人間を襲っているところへ、主役の怪獣が海から現れてそれを退治しようとする展開は「ガメラ対ギャオス」だし、何よりムートーの頭頂部が平坦で頭部全体が鋭角的という造形がギャオスに似すぎている。ムートーが列車を咥えて中の「餌」を取り出すシーンも「ガメラ対ギャオス」で既視感のあるものだし、翼があって空を飛ぶ二匹目のムートーがゴジラより小さいというあたりも、ガメラ対ギャオスの格闘シーンを想起させた。
ムートーがサンフランシスコの地下に巣を作り卵を産み付けるという設定は、いまや存在すら忘れかけられているローランド・エメリッヒ版「ゴジラ」に通ずるところもあるが、「レギオン襲来」の街の地下に巣を作るレギオンを想起させるし、金属をこすりあわせるような声もレギオンに似ている。それより何より「レギオン襲来」を思わせるのは、途中から人類がゴジラ(ガメラ)は、地球のバランスを正すためにやって来た救世主であると認識して敵視せず、ムートー(レギオン)を倒したゴジラ(ガメラ)が何処かへ帰って行くのを歓声(敬礼)とともに見送るというラストである。
昨年の夏に公開されたギレルモ・デル・トロ監督の「パシフィック・リム」は、予告篇から堂々と日本のロボット・アニメと怪獣映画のリブートであることを宣言し、そしてその怪獣やロボットに対する理解力の深さで、日本のマニアたちも「あそこは何のパクリ」などという気も起こらないほどに打ちのめされ、パシリム信者と化した。
それに比べると、ギャレス・エドワーズ監督の「ゴジラ」は、日本の怪獣映画の消化が不足だったのではないかと思う。
原題:GODZILLA
監督:ギャレス・エドワーズ
主な出演:アーロン・テイラー=ジョンソン
渡辺謙
エリザベス・オルセン
ブライアン・クランストン
この記事を書いた人
- オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
最新記事
- 2014.12.09アクション【7点】」「ヘラクレス」、ヘラクレスそしてヘラクレス
- 2014.12.07ドラマ【6点】「イヴ・サンローラン」の主役は天才を支える苦労人
- 2014.11.29SF【8点】「パシフィック・リム」は終わらない・秋のパシリム祭り
- 2014.11.24ドラマ【8点】「ジャージー・ボーイズ」はアメリカの時代描写のセンスが抜群
スポンサーリンク