「ヒックとドラゴン2(仮題)」の日本公開は未定?

ヒックとドラゴン広告2-2

宣伝次第で大きく変わるか?

映画の興行というのは難しいもので、名作や大作が必ずしも当たるとは限らない
アメリカで当たったからと言って日本でも当たるとはかぎらないし、逆にアメリカでコケても日本では大ヒットということもある。
アメリカでヒットしたのに日本では不入りだった作品には、「ダークナイト」や「メリダとおそろしの森」があるし、アメリカでは当たらなかったのに日本ではヒットを飛ばした作品には「A.I.」や「バイオハザードV」がある。

ドリームワークスの3Dアニメ「ヒックとドラゴン」も、アメリカではその年公開作品の9位に入る好成績だったのに、日本では4億8千万円と大きなヒットにはならなかった。ピクサー作品で日本最低の成績といわれる「メリダとおそろしの森」でも8億7千万円の興収を得ているので、「ヒックとドラゴン」の不調ぶりがわかるだろう。おそらく上映権料や宣伝費を差し引いたら、配給会社の赤字になったはずだ。

海外で当たって日本でコケる映画は、基本的に宣伝が手抜きのケースが多い。
アメリカで5億3300万ドルを稼いで今も全米映画史上ベスト5に入っている「ダークナイト」の日本での興行収入は16億円、ざっと1600万ドルでしかない。
これは、配給を手がけた松竹がほとんど宣伝に力を入れなかったのが大きな理由だと思える。
「ダークナイト」が公開された2008年8月は、前月に公開された「崖の上のポニョ」が155億円を稼いでいる最中で、48億円を稼いだポケモン劇場版第11作をのぞくと、ほとんどがポニョの煽りでコケている状態だった。それを予期したのか、松竹もほとんどプロモーションを行わなかったために「ダークナイト」が「バットマン ビギンズ」の続篇であることすらよく知られてはいない状態での公開になった。これではヒース・レジャーが一世一代の名演をしようが当たるわけがない。

「ヒックとドラゴン」の場合は、宣伝自体はそこそこ行われていたものの、その内容良くなかったと思う。
ヒックの飼うドラゴンの名前のトゥースレス(歯なし)を逆の意味のトゥース(歯)に変えて、オードリーの春日のギャグ「トゥース」とリンクさせて宣伝キャプテンに任命するというものだった。
「ヒックとドラゴン」が振るわなかったのは「宣伝」の効果が弱かったのではないかと思う。

アメリカではヒットした「ヒックとドラゴン2」

その「ヒックとドラゴン」の続篇「ヒックとドラゴン2(仮題)」がアメリカで6月に公開されたので見てきた。
あまりネタばれしないように書くが、前作から5年後、ヒックとトゥースレスはさらに成長を重ね、部族の若者とドラゴンのリーダー格にまでなっている
そこへ現れる凶悪なドラゴンを狩る者や謎のドラゴンライダーといった新キャラはいずれも魅力的で、単なる続編ではなくなっている。ただ、新キャラに話の重点を置いているため、1作目で共に活躍したヒックの仲間たちの扱いは大きく後退してしまっているのは、前作のファンには物足りないかもしれない。
しかし、少年が仲間たちと成長していく話だった前作と違って、続編は少年が大人になる試練の物語なので、これはやむを得ないことだったのだろう。子供時代と違って、大人になるには周囲の助けを当てにせず自分一人で解決しなければならないことも多いのだから。

続編の見せ場は、ドラゴンを狩る者と謎のドラゴンライダーの方にシフトしているのだが、どちらもドラゴンにまつわるキャラクターのため、出てくるドラゴンの数、種類、サイズは前作とは比較にならないほどスケールアップしている。
特に後半に登場するドラゴンの王アルファは、「風の谷のナウシカ」の王蟲や、「ミスト」の最後に現れる異次元の巨大怪物ベヒモスを思わせる巨大感で、大画面で見ると圧倒される。
また、その造形が西洋的なドラゴンよりも、成田亨がデザインしたウルトラ怪獣を思わせるところがあるのは、宮崎アニメの信奉者で第1作で「風の谷のナウシカ」や「魔女の宅急便」をお手本にしたような飛行シーンを描いていたディーン・デュボアとクリス・サンダースのセンスというよりは、スペシャル・サンクスに名のあったギレルモ・デル・トロの趣味に近い。

当然、日本でも劇場でできることなら3Dで見たいような作品なのだが、どうやら日本では劇場未公開でビデオスルーになりそうな雰囲気に感じる。
当初は8月1日公開の夏休み映画になるという噂もあったのだが、現在まで「ヒックとドラゴン2」の劇場公開が正式にアナウンスされたことはない。
これは、前作での興行成績に配給会社が二の足を踏んだ結果だろう。

日本では当たらないドリームワークスのアニメーション

日本ではドリームワークス・アニメーションの作品は、UIP、ユニヴァーサル・ピクチャーズ、アスミック・エース、パラマウント、20世紀フォックスと配給会社が転々としているのだが、これは取りも直さず商売として独占したいほどの旨味がないことを示している。
ドリームワークスのアニメの興行収入は「シュレック2」の25億円が最高で、20億円を越えたのは「シュレック」「マダガスカル」「カンフー・パンダ」ぐらい。「カーズ2」が30億円で不振と言われるピクサーに比べて日本での動員力は弱いのだ。
そのため、アメリカでの配給元が20世紀フォックスに移ってからは、「ガーディアンズ 伝説の勇者たち」「クルードさんちのはじめての冒険」「ターボ」と3作続いて日本では劇場公開されず、DVD販売のみとなっている。
「ヒックとドラゴン2」も劇場公開してもたいした収益を上げられないと判断したのだろう。

署名で配給会社を動かせる映画は限られているが・・・。

「ヒックとドラゴン」のファンを中心に劇場公開を求める署名活動がネット上で行われている。
確かにファンの署名活動によって、ビデオスルーになるはずの映画が劇場公開された例はある。
「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」「キック・アス」「ファンボーイズ」などはそのいい例だ。
今まで署名活動で上映が決定された映画は、「ホット・ファズ」が1600万ドル、「キック・アス」が3000万ドル、「ファンボーイズ」に至っては390万ドルと、ハリウッドの基準では低予算の作品ばかりだが、「ヒックとドラゴン2」は1億4500万ドルという大作なのだ。
製作費が一桁違う上に世界中で当たっている作品だから、配給権も安くないだろうことは容易に想像がつく。
最近のドリームワークスのアニメが劇場公開されない理由もそこにある。ともかく1ドル100円としても製作費145億円の映画なので、配給権も高額だから、売るからにはしっかり宣伝をして、上映する劇場にも売り込まないといけない。
「キック・アス」のように単館系で地道に上映という訳にはいかないのだ。

しかも、2は3部作の真ん中という中継ぎ的な存在なので、1を見ていないとわからない部分も多いし、物語自体も3に続くようになっている。売り方も難しいのだ。さらに、1の時の配給会社はパラマウントだったのが、2では20世紀フォックスに提携先が替わっているから、ややこしい。2の公開に合わせて1のリバイバルプロモーション放映が簡単にできるのかどうか。
そんなリスクを冒して前作のような不入りになるくらいだったら、劇場公開はせずにビデオスルーにしてしまった方が楽だというのが配給会社の考えだろう。
仮に1万人が署名をしてくれても、映画料金に直したら1800万円でしかない。
1800万円で数億の損失が出るかもしれない映画を買い付けるのは大きな賭けではないか。
署名活動で公開されればラッキーと考え、Blu-rayの発売後にイベント的に観るのが現実的かもしれない。

原題:How to Train Your Dragon 2

ヒックとドラゴン写真広告1-1

ヒックとドラゴン2-3

この記事を書いた人

天元ココ
天元ココ著者
オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
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