「STAND BY ME ドラえもん」~縦軸ストーリーの決定版~

スタンドバイミードラえもん

良い子のみんなに混じって「STAND BY ME ドラえもん」を観てきました。
約15年前にまだ幼かった子供たちを連れて隣町の古い映画館に行ったときのことを思い出します。かかっていたのは「のび太の南海大冒険」それに「ザ☆ドラえもんズ ムシムシぴょんぴょん大作戦!」と「帰ってきたドラえもん」の三本立てでした。そして不覚にも私は「帰ってきたドラえもん」にやられてしまったのです。
子供たちも泣いていたけれど、それ以上に目を真っ赤に泣き腫らした私は外に出るのがつらかった!
奇想天外、夢と冒険のドラえもんのストーリーに、こんな落とし穴があることを初めて知った体験でした。

そして今回の「STAND BY ME ドラえもん」は「泣き」のストーリーを組み立てたもので、ドラえもんと共に育った大人たちも、現在進行形で成育中の子供たちもひっくるめて、思い切り泣かせてやろうというものらしいのです。
ポケットから繰り出される様々な道具を使って展開される横軸ストーリーに対し、これは時間軸を移動して語られる縦軸ストーリーと言えましょう。
ドラえもんはどこから、何のためにやってきたのか。そしてその目的が遂行されたらどうなってしまうのか。
ドラえもんとのつきあいが浅い子供たちにとっては新鮮で、キホンのキの物語。それがCGで臨場感たっぷりに展開されていきます。

泣けなかったのはなぜか?

そうです。私は泣けなかったもう一度あの時のように泣いてみたかったのですが。
それは多くの人が指摘しているように、もう知りつくしたストーリーだったからでしょうか。
私的には「のび太の幸せ」=「しずかちゃんとの結婚」という大前提のところで引っかかってしまったせいだと思うのです。

いまや「しずかちゃん」は絶滅危惧種です。
スカートをめくられて「イヤーン、のび太さんのエッチ!」などと言って顔を赤くする女の子がどこにいるでしょう。今どきの小学生が「スカートめくり」をするのかはさておき、確かに昭和の小学生にとって「スカートめくり」は定番のイベントでしたが、「イヤーン」などと言ってる暇があれば追いかけていって蹴りの2~3発は入れてやるのが普通でした。
あのうるうるの目で見つめられたら誰でもまいってしまいそうですが、アイドルの女の子たちだってそんな目をするのはカメラの前だけです。人の幸せを願う心やさしいのび太が、四六時中うるうる目のしずかちゃんと結婚したら、もう自分の幸せよりもしずかちゃんを幸せにするためだけに生きてしまいそうです。
それが「のび太の幸せ」なのでしょうか?

また、「ジャイ子と結婚すること」=「不幸」の図式にも違和感を覚えます。今の時代、漫画家として自立するジャイ子の生き方はとても素敵に思えます。まして6人も子供を産むなんてスバラシイではありませんか! のび太が自分で事業を起こしたものの失敗して貧乏子だくさんになったとしても、にぎやかでメリハリのある人生が不幸とは限りません。

これらの違和感が邪魔をして、ドラえもんとの別れと再会のドラマに没入できなかったと言えるでしょう。
また、ジャイアンとケンカをするのび太の表情が、CGであまりにもリアルに描かれているので怖くなってしまったせいもあります。

もうひとつのストーリー

ドラえもんには幻の最終回があることを知りました。
ファンの一人が同人誌に発表したものがネットなどで広まったそうです。藤子・F・不二雄氏が描いたものではないため公式には認められておらず、著作権などで問題化したこともあったそうです。

電池切れで動かなくなったドラえもんを直すため、のび太が一念発起してロボット工学の博士になり、長年の研究の末、妻しずかと共にドラえもんを再起動させるというものです。長い眠りから覚めたドラえもんが発した言葉が、「のび太くん、宿題はおわったのかい!?」という上出来のお話なのです。

そしてこの話に感動した一人が、今回の「STAND BY ME ドラえもん」で監督を務めた山崎貴氏で、氏の第1作映画「ジュブナイル」はこの幻の最終回をもとに脚本を書いたといういわく付きです。
おそらく山崎監督はのどから手が出るほどこの話を今回のストーリーに盛り込みたかったに違いありません。
そうすれば今の時代にマッチした成長物語となり、この私も完全に落ちていたことでしょう。

でもそれはしませんでした。
あくまでも原作に忠実に、はみだすことなく感動作を練り上げ、最高のCGで盛り上げることに徹したのです。

映画館の子供たちは3Dの画面でドラえもんと共にタケコプターで飛び回る体験に歓声を上げていました。あまりの臨場感に、空飛ぶ車にぶつかりそうな場面では声もでなくなっていましたけど。

まとめ

2014年7月アメリカでの放映が始まり、いくつかの改変が伝えられています。
しずかちゃんはおしとやかな性格が問題ありとされ、ボーイッシュなキャラに変身しているそうです。

それに比べると、今回の「STAND BY ME ドラえもん」はあくまでも原作に忠実に作るという姿勢が貫かれ、技術の革新(CG化)は許しても内容の改変は許さないという制作側の姿勢が伝わる1作だったと言えるでしょう。

キャスト

監督 八木竜一、山崎貴
脚本 山崎貴
原作 藤子・F・不二雄
出演者 レギュラー
水田わさび
大原めぐみ
かかずゆみ
木村昴
関智一
音楽 佐藤直紀
主題歌 「ひまわりの約束」秦基博

この記事を書いた人

くりちゃん
くりちゃん著者
映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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