「舞妓はレディ」~原点は「ファンシイダンス(1989)」~
「ファンシイダンス」って?
「ファンシイダンス」は、1984年から1990年にプチフラワーに連載された岡野玲子さんの漫画を周防正行監督が1989年に映画化したもの。周防監督の一般向け映画第1作目の作品です。
主演は本木雅弘さん、恋人役に鈴木保奈美さん。竹中直人さんなど、その後の周防監督作品にはお馴染みのメンバーが顔を揃えています。
ロックボーカリストだった禅寺の跡取り息子が寺を継ぐため1年間の修行に入ることになり、その修行の様子をコミカルに描いたもの。不真面目だった主人公が徐々に寺の戒律に慣れていき、しきたりや所作の美しさに魅かれお寺の世界にどっぷりと浸かっていきます。読経の響きや教典を繰る仕草、歩き方、掃除の仕方、寝方、食事の摂り方、便所の使い方など、立ち居振る舞いのひとつひとつが定型化され、まるでダンスのステップを踏むかのごとく様式化されている独特の世界を、テンポよくコミカルに伝えていきます。
本来は大真面目の世界なのですが、そこで生きるお坊さん達の人間くささが笑いを誘うのです。
ドタバタの中にも悟りに至るヒントが隠されているような気になり、主人公と共にお坊さんの世界の奥義に近づいていくような高揚感もあります。特に、魚のいない池に日がな1日釣り糸を垂らす住職の力の抜けきった悟りの境地には、脱帽です。
最後は、恋人の誘惑に抗えなかった主人公が、修行半ばということでもう1年の修行を言い渡されるところで映画は終わります。
「舞妓はレディ」につながる手法
連綿と受け継がれてきた日本の伝統文化の中でも特にタコツボ的と言える材料を選び、中に入った者しか知らない秘密を、何も知らずに飛び込んできた若者と共に味わいその成長を見守る映画として、まさに「ファンシイダンス」は「舞妓はレディ」の原型と言えるでしょう。
カメラ目線の会話のやりとりなど、小津映画の手法を踏襲している点も共通します。
このあと1992年に周防監督は「シコふんじゃった。」で学生相撲の世界を描いています。
インタビュー記事によると「シコふんじゃった。」を撮ったあと舞妓の世界に興味を持ち、なんとか映画にしたいと思ったけれど知らないことが多すぎるので、その頃からお茶屋通いを始めたのだとか。
22年に及ぶ京都の取材を経ての濃密な「舞妓の世界」を、私たちに存分に見せてくれました。
「マイ・フェア・レディ」を下敷きにしたわかりやすいストーリー展開、お茶屋遊びの極意を知る楽しさ、歌と踊りのウキウキ感、主演の上白石萌音ちゃんのかわいらしさや歌のうまさに加え、最後は立派な舞妓ぶりを見せてくれた嬉しさなど、「舞妓はレディ」は文句なく楽しい映画でした。
惜しむらくは、「アナ雪」級の力のある歌がひとつあったらよかったなと、そこだけが心残りでした。
キャスト
上白石萌音
長谷川博己
富司純子
田畑智子
草刈民代
この記事を書いた人
- 映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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