「永遠の0」~永遠の誓いのために~
DVDが出たのを機に、原作を読んでから再び視聴してみました。
そして前回に増して深い感動がありました。
多くの人が指摘しているように、原作にあるマスコミ批判や当時の参謀本部に代表される官僚批判の部分は上手に削られています。毒気が抜かれた分テーマが純粋になり、共感を得やすくなったのではないでしょうか。
ひとつひとつのシーンが深い意味を持って配置され、巧みに構成されており、迫力ある映像でより大きな感動に導く手腕はみごとで、改めてすばらしい映画だと思いました。
時代の空気の中で生きるということ
時代の空気に逆らって生きることはどんなに困難かを思い知らされます。
「家族のために生き延びたい」現代では人として当然の気持ちと受け止められる言葉でも、戦時下の、しかも海軍のパイロットが口にすれば「臆病者」「女々しい」というそしりがついてきます。
現代に生きる姉と弟が、戦後60周年の特集記事を書くために特攻で死んだという実の祖父宮部久蔵のことを調べ始めて、最初に出会ったのはこの「臆病者」というそしりでした。
しかし、いろいろな人物に会って話を聞くうちに、その本当の心を知るようになります。宮部は「帰りを待つ家族のために生き延びる」ことを決意し、「生きる」ためにあらゆる努力をする人だったのです。
でもまわりの空気は真逆です。「生き恥をさらすな」と教育され、「お国のために死ぬ」ことが是の時代でした。
宮部はゼロ戦乗りとして高い技術を持っている点は評価されながらも、一線を引いた態度を理解する人はいませんでした。しかし身近に接する者は「生きるためにあらゆる努力をしろ」と繰り返し説き努力する姿に感化され、その公平で高潔な人柄に魅かれるようになっていきます。
姉と弟は、祖父のもとで共に戦い生き残った人物にそのことを聞き、時代の空気に逆らって自分を貫こうとする祖父の真の強さに胸を打たれ、深く感動するのです。
そして改めて大きな問が湧いてきます。
そんな祖父が、なぜ特攻で散ったのかと。
特攻とは
太平洋戦争末期に日本海軍によって行われたほぼ生還の見込みのない体当たり攻撃。
学徒出陣で徴収された知力体力のある若者たちを中心に特攻要員が短期間に育成され、「志願」を前提として組織されました。
しかしそれは本当の「志願」だったのでしょうか? ここは意見の分かれる所です。
志願書を渡された者のほとんどが「志願」したことを今の時代から眺め、「ヒロイズム」「狂信的愛国者」はては「自爆テロ」との同一視などと評価されることは仕方ないのでしょうか?
でも、歴史を理解するとは、その時代と同じ空気を吸ってみて初めて可能なことです。
時代の空気に押され、全身を恐怖に震わせながら「志願」にマルをつけた若者の心中を思わずにいられません。
そんな空気の中でも、宮部は「志願」しませんでした。
「九死一生」どころか「十死零生」の特攻には、どうしても賛成できなかったのです。
その宮部が、終戦のわずか数日前の特攻で散ったのはなぜだったのでしょう?
戦局がどんどん悪くなり教え子たちが次々に命を散らしていく中で、宮部の心は病んでいきます。
「俺は他人の犠牲の上で生き延びているんだ。俺はどうしたらいい、どうしたらいい・・・」
家族への愛と己の利己的な立場との狭間で、宮部は苦しみ抜くのです。
生き残るということ
もし宮部が生き残っていたなら、この映画はここまでの共感を得られなかったのではないでしょうか。
もちろんそれは特攻に「志願」したことを良しと考えて述べているのではありません。自分の本意でない生き方を(死に方を!)強いられるほど恐ろしいことはなく、あの宮部にしてついに抗いきれなかったというところにむしろ人間的なものを感じるからです。
だからこそこのような時代の空気を作ってはならない、このような空気を生み出す戦争という時代を二度と繰り返してはならないと、深く心に刻むのです。
映画の終盤、姉と弟が「おじいちゃん」と呼んで親しんできた人物と宮部の関係が明かされ、さらなる感動に包まれます。そして宮部が最後まで家族への愛を捨てなかったことがわかるのです。
夏八木勲さん演じる「おじいちゃん」のセリフが心に残ります。
「死をムダにしてはいけない。物語を続けることだ。私たちが特別なのではない。ひとりひとりがそれを胸に秘めて何事もなかったように生きている。それが生き残ったということなんだ」
私たちはなんと多くの先人たちの愛に包まれて暮らしていることでしょう。
それは宮部に限ったことではなく、先に逝った自分の身近な人を思い浮かべてみればわかることです。
映画は最後にゼロ戦に乗った宮部の神懸かり的飛行を映し出します。すべてのしがらみを吹っ切り純粋な飛行機乗りの顔になった宮部が、強い意志と引きつった笑みを浮かべたその瞬間、映画はぷつりと閉じられます。
すべての日本人と世界中の人に観てもらいたい映画です。夏が来るたびに繰り返し観たい映画です。
監督:山崎貴
原作:百田尚樹『永遠の0』(太田出版)
キャスト
岡田准一
三浦春馬
井上真央
吹石一恵
上田竜也
この記事を書いた人
- 映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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