「LUCY ルーシー」を見れば分かるリュック・ベッソンの頭の中
中二病ではなく中二そのものリュック・ベッソン
リュック・ベッソンといえば、いまだに大人向けの良質なハードボイルド・アクションを提供してくれる監督のように思っている人も多いかもしれないが、ここで断言しておこう。
リュック・ベッソンの本質は中二男子の妄想である。
ベッソンの評価が高い、あるいは誤解されているのは、自ら「殻を破った」という「ニキータ」とそのハリウッド的リメイクである「レオン」のおかげだが、あれは間違って大人の鑑賞に耐える作品を作ってしまったにすぎない。ベッソンもその誤ちを恥じるかのように「レオン」以後は、「フィフス・エレメント」「アンジェラ」「アーサーとミニモイの不思議な王国」「マラヴィータ」といった独自のセンスを発揮させた、興行的にはすべりまくる作品ばかりを撮っている。
特に「フィフス・エレメント」は、本格的なSF映画を期待した向きからは酷評だったが、あれはベッソンの「子供のころぼくが考えたカッコいいSF活劇」という夢想を100億円かけて映像化したところに値打ちがあるので、つっこんだら負けなのである。
これぞベッソンという最新作
そんなベッソンの新作「ルーシー」も、予告の印象では「ニキータ」の大人向けアクション路線に今はやりのサイバーSFの味付けをした「ウルトラヴァイオレット」や「イーオン・フラックス」の二番煎じ的作品かと思ってほとんど期待せずに見たのだが、いやいやいや、これまたベッソンでなければ絶対に撮れない作品だった。
序盤こそ、韓国マフィアの陰謀に巻き込まれたスカーレット・ヨハンセンが、「レオン」のナタリー・ポートマンのように絶対の危機に陥っていくのだが、合成麻薬のおかげで脳が活性化してからは、ベッソンが過去に見ただろうカッコいいショットの大ツギハギ大会になっていく。
「攻殻機動隊」「マトリックス」「2001年宇宙の旅」「AKIRA」「E.T.」といったSF系だけではなく「ツリー・オブ・ライフ」みたいなアーティスティックな作品を思わせるシーンまで実に盛りだくさん。
これはもしかしてゴダールが「映画史」で主張している「映画とは自分がこれまで体験した映画、絵画、文学、音楽などの断片を組み合わせる作業」というモンタージュ理論を実践しているのでは、と誤解してしまいそうになるくらい、既視感のある映像のオンパレードなのだ。しかも、お手本にした映像を超えているかというとそうでもない。はっきり言って、あの映像がカッコよかったから似たように撮ってみた、というレベル。
考えるな、怒るな、突っ込むな
だけど「映画史」のように眠くはならない。
なにしろマフィアの麻薬から始まって、ついには宇宙の始まりと終わりにまで言及してしまうという「フィフス・エレメント」を凌駕するスケールの作品なのに、本編は89分しかないのだ。ベッソンのセンスのずれに腹抱えて笑っているうちに終わってしまうのである。
似たようなシーンがある「トランセンデンス」に欠けていたのは、壮大なほら話を何も考えずに作るという思いきりのよさではなかったか。
「フィフス・エレメント」にならって言うならば、これは「中二の俺様が考えたカッコいいサイバーSF」であって、「攻殻機動隊」のような深淵なテーマを包含している作品では決してない。
ジェリー・ブラッカイマーが製作する映画を見る時のように、脳の機能を10%から5%ぐらいに落として、何も考えずに見ていると楽しめる。
皮肉ではなく本当に楽しんだので、ともかくバカになって見ろと強くリコメンドしておきます。
キャスト
スカーレット・ヨハンソン
モーガン・フリーマン
チェ・ミンシク
この記事を書いた人
- オリオン座近くで燃えた宇宙船やタンホイザーゲートのオーロラ、そんな人間には信じられぬものを見せてくれるような映画が好き。
映画を見ない人さえ見る、全米が泣いた感動大作は他人にまかせた。
誰も知らないマイナーSFやB級ホラーは私にまかせてください。
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