『鉄くず拾いの物語』愛する人のためにできること
お家で映画鑑賞『鉄くず拾いの物語』
あらすじ・レビュー
予告を劇場で観たときから、これは心が痛くなりそうな物語だけど、こういう現実が、今もこの世界で起きていると受け止め、しっかり見届けなければいけない作品だと感じていた。
舞台はボスニア・ヘルツェコヴィナ。貧困と差別に苦しみながらも幸せに暮らしているロマ一家。
その家族に降りかかる、命の危機をめぐる真実の物語を、当事者たちを登場させ、ドキュメンタリータッチに描いている。
妻のセナダのお腹には、3人目の子供がいる。ある日、彼女は激しい腹痛に襲われ、夫ナジフの運転する車で病院へと運び込まれる。悲しい診断結果を突きつけられる。お腹の中で、5か月の胎児はすでに息を引き取っていた。遠い街の大きな病院ですぐに手術を受けないと、妻の命も危ないと。鉄くずを拾い、それを売って生計を立てているナジフ一家。保険証などあるはずもなく、とんでもない金額の手術代を目の前にして、途方に暮れる。しかし、愛する妻の命を救うため、家族を守るため、どうにかして、手術を受ける方法はないかと奔走する。
『神さまは貧しいものばかり苦しめる』と嘆きながらも、家族のためにせっせと鉄くずを拾い集め、どうにか手術代を稼ごうとする。その日暮らしもままならないような鉄くず集めが、途方もない金額の手術代に届くはずもなく—。
絶望のどん底に突き落とされたナジフだが、愛する家族を守るため、そして、彼らを見つめるその眼差しには底知れぬ優しさに満ち溢れている。
まとめ
この作品は、手持ちカメラで撮影されている。なので、主人公たちの様子は、演技のような現実のような、ドキュメンタリー感が溢れている。急速な工業化が進んでいる地域もあるが、その一方で、日々を生きるのに精いっぱいの人々もたくさんいる現実。時折映し出される、自然の美しさに心が落ち着く瞬間もあるのだが、やはり、目に入ってくるのは、貧しさから抜け出せない、底辺にいる人々の生活なのだ。
最後には、義理の妹の保険証を借りて、交渉した病院とはまた違うところで手術を受けて、愛する妻は助かるのだが、今度は、自分の車を解体する。薬代と生活費のために。
借りた保険証、誠実に生きてきたナジフが、この方法をとらなければいけないという厳しすぎる現実に、目を背けたくなる。どうすればよかったのか、これからどうしてゆけばいいのか。と考えようにも、その日暮らしのナジフ一家にその余裕はないのだろう。それがこの家族の、この国の現実だ。なにかしなければ!という気持ちにさせられながらも、どうしようもない現実というのを突きつけられ、なんだか行き詰った感を、やり場のない憤りを感じてしまう、受け止めるのが難しい作品である。
(HaLu)
キャスト
原題 Epizoda u zivotu beraca zeljeza
監督ダニス・タノビッチ
脚本ダニス・タノビッチ
セナダ・アリマノビッチ
ナジフ・ムジチ
この記事を書いた人
- 映画のこと、音楽のこと、ファッションのこと、グルメのこと、マンガのこと、本のこと、旅行のことなどなど、ときどき書いてます。新作から掘り出し物の作品まで、おススメを紹介していきたいと思います。
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