【7点】「プロミスト・ランド」~希望の地にするためにはどうしたらよいのか~
アメリカのシェールガス開発にまつわるヒューマンドラマです。
マット・デイモンが脚本にも関わり主演を務め、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997)」以来の盟友ガス・ヴァン・サントが監督です。
シェールガスって?
知っている方も多いでしょうがちょっとおさらいしておくと、シェール層と呼ばれる地層から採取される天然ガスのことです。
アメリカでは1990年代から新しい資源として注目され、2000年代に入り水圧破砕法などの技術革新により生産量が飛躍的に増加しました。アメリカの国土のほぼ全域に広がるシェール層に埋蔵されているガスは100年分を超えるといわれ、世界のエネルギー事情を塗り替えました。
しかし、掘削コストに見合う生産量が得られなかったり、供給過剰による価格の低下などのリスクもあり、最近では相次いで参入した日本企業が多額の損益を計上する事態に至っています。
そして今回の映画で取り上げているのは環境への影響です。
大量の水を使って行われる水圧破砕で流れ出たものが近くの水源や地表を汚染する例が確認されているのです。
この映画が突きつけているもの
この映画が作られたのは2012年です。その頃の日本は2011年のカタストロフィから立ち上がろうともがいている最中でした。原発がダメになり、中東の高い原油を買わざるを得ない状況から脱却するための選択肢のひとつとして、このシェールガス革命はもろ手を挙げて迎えられていました。
しかしアメリカではすでに新しい問題が起きていたのですね。
この映画はシェールガス開発の是非には踏み込んでいません。現状を淡々と伝えながらそこに生きる人々の姿を映し、苦悩する主人公を通して「さて私たちはどうすべきなのか」と問題を提起する所で終わっています。
物語
アメリカの田舎町に、大手エネルギー会社のエリート社員スティーヴ(マット・デイモン)が、相棒の女性社員スー(フランシス・マクドーマンド)と共に乗り込んできます。彼らは各地でシェールガスの掘削権を安値で買いたたき業績を上げているのです。そしてここでも、貧乏な田舎町にお金をちらつかせればすべてうまくいくといういつものやり方で、住民にとけ込むスタイルで一軒一軒地道に塗りつぶしの作業を進めていきます。
順調に進んでいると思ったのもつかの間、住民説明会で思わぬ反論に出会います。
反論をしたのは、大企業の元研究員で退職後は地元で高校教師をしているという科学者で、シェールガス開発の問題点を指摘し、3週間後に住民投票で開発の是非を問うことになるのです。
そんなところへ今度は環境活動家と称するものが現れて啓発活動を始め、スティーヴはすっかり悪者に仕立て上げられてしまいます。(ちなみにこの活動家の役をしたジョン・クラシンスキーはマット・デイモンと共に脚本を担当しています)
お金ですべてを解決するという会社のやり方を信じて疑わなかったスティーヴが、豊かな田園の風景に自分の故郷を重ね、また、お金が入ると知るや高級車を乗り回すようになった地主の姿を見るうちに、このやり方に疑問を感じるようになります。それでも彼はあくまでも社員として地元の信頼を回復させようと努めますが、うまくいきません。
そのあとの事態は、逆転につぐ逆転です。
そして最終的に彼が選んだ道とはーーー。
映画は社会問題に切り込みながらも彼個人の人生の選択を伝える所で終わっています。
この先はみんながそれぞれに考えてね、というように。
現在進行形の問題なのでスカッとした結論はありませんが、堅苦しい社会派ドラマではなく、あくまでも人の血の通ったドラマとして観られる点が良いです。
キャスト
マット・デイモン
ジョン・クラシンスキー
フランシス・マクドーマンド
ローズマリー・デウィット
スクート・マクネイリー
【7点/10点】
この記事を書いた人
- 映画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いて気ままに暮らし、ときどきこうしてレビューなんぞが書けたら最高。酸いも甘いもかみ分けた大人のレビューが書けるといいなあ。
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